ヘレンドのミニ知識
ヘレンドは今年、創業190周年です。
1826年、ハンガーリーの首都ブタペストから南西に120km程の地でオーストリアと国境も近く、また中央ヨーロッパ最大の湖バラトン湖のある自然豊かな美しいヘレンド村に小さな陶器工房が誕生しました。ヘレンドは村の名前から由来しているそうです。その小さな陶器工房をモールフィッシャーが1839年に買取し、陶器製造から磁器製造へと代わり、次第に王侯貴族に愛される存在に発展していきます。
ヘレンドはヨーロッパで最初の磁器工場マイセンより100年近く遅れた創業でしたが、その小さな工房から今日世界中で愛されるブランドへと発展に至る経緯は、190年に及ぶ一貫したクラフトマンシップに寄るものです。
創業当時のヘレンド村はオーストリア帝国の統治下にありました。マリア・テレジアをはじめとする歴代王室はウィーンに王室直属の磁器工房アウガルテンを所有しており庇護していました。磁器工房の殆どは各国直属の王の庇護のもとにあり、ヘレンドも同様王室の庇護と創業を求めて申請を出しますが、既に王室はアウガルテンを庇護されていたため、却下され続けていました。
創業時より手作業にこだわり、品質と芸術性の高さは折り紙つきとなり、次第に王侯貴族から城内で使用されて壊れたり欠けたりした磁器製品の修復の依頼を受けるようになりました。そのことにより芸術性と技術を飛躍的に高めることになったそうです。時代は産業革命と流れ、多くの磁器工房は機械化と量産性を可能にしましたが、ヘレンドは量産性よりも技術者の手作業による芸術と品質の高さを誇りとし、現在に至ります。
1848年にハンガリー独立運動がおこり、主導者たちはハンガリーの工業の発展が国家の独立を可能にすると考え、定期審査会「産業博覧会」を興し、ヘレンドも博覧会に出展し毎回新作を発表されたそうです。ハンガリーの独立戦争は敗北しますが「産業博覧会」によりヘレンドは徐々に国際社会で評価を得るようになります。
1851年、ロンドンで開催された世界の産業生産を審査奨励する「第一回万国博覧会」で、ヴィクトリア女王から直接ディナー・セットの受注があり、蝶や花の繊細で優雅な模様は「ヴィクトリア」と命名され現在でも人気シリーズとなっています。1853年ニューヨークで開催された「国際産業博」でヘレンドの製品は3日で完売し、王侯貴族だけでなく裕福な市民にも人気を博したことが証明されました。1867年のパリ万博、1873年のウィーン万博で受賞を果たし、創業者のモールフィッシャーはフランスで勲章が与えられました。以来、ヘレンドのクラフトマンシップは不動の地位と技術・芸術性の高さを今日に伝えています。
ヘレンドにみるヴィクトリア女王とロスチャイルド家のエピソードを物語る、ロスチャイルドバードシリーズ。小枝に掛かったネックレスと戯れる二羽の小鳥のパターンはヴィクトリア女王とロスチャイルド家の微笑ましい逸話から誕生したものです。
ヘレンド製品の特長のひとつに高い芸術性が挙げられます。シノワズリシリーズやロスチャイルドシリーズ、超高級ラインのペルシャの密画などがあります。当店でペルシャの密画をお客様よりお預かりした際には、その精工な作りを拝見し大変な感動を覚えました。店頭にも並んでいるヘレンドの製品は、他製品に比べると一際発色が良く、視界に飛び込んできます。
シノワズリシリーズは、あくまでも私見ですが、正直私ははじめちょっと悪趣味?と感じた面がありましたが、一度見ると忘れられない人物の描写に、次第に愛着が沸き始め、今では癒しの存在になってしまいました。しかも人物以外の花や生き物の描写は大変すばらしく、その繊細で華やかな絵柄と人物のほっこりさせるコントラストに、私も今やシノワズリシリーズの根強いファンの一人です(笑)。